Today’s China④:中国市場で誰を狙うか-若者富裕層を軸にインバウンド戦略

中国市場を考えるとき、まず理解すべきは「全員をターゲットにはできない」という現実です。中国は14億人の大国ですが、海外旅行に行けるのは都市戸籍を持つ一部の人々。さらにその中でも、実際に訪日するのは都市部に暮らし、経済力と情報感度の高い層です。

特に注目すべきは、20〜30代の都市部の若者です。彼らは海外旅行を積極的に楽しみ、行動力も旺盛。人口構成を見ると、日本では20〜39歳が全体の21%ですが、中国では28%と比率が高く、まさに消費の主力軍といえます。さらに絞り込むと、世帯純金融資産約6百万元(約1.2億円)を持つ若者富裕層約400万人が“重要ターゲット”として浮かび上がります。彼らは情報収集力も高く、まず自分で新しい体験を試し、その評判がSNSを通じて広がり、他の層へ波及するというスノビズム効果を生みます。

資料の図を見ると、若者富裕層の割合は決して大多数ではないものの、消費力の集中度は高く、訪日市場においては大きなインパクトを持つことがわかります。ここで重要なのは、こうした層を「カラフルな団体観光客」と同じイメージで捉えてしまわないことです。中国には「張冠李戴(張さんの帽子を李さんにかぶせる)」ということわざがありますが、まさにターゲット像を取り違えると、訴求内容が的外れになり、せっかくの機会を逃してしまいます。

彼らに響くのは、安さではなく「質の高い体験」や「共感できるストーリー」です。観光地や自治体は、ラグジュアリーな体験だけでなく、丁寧な接客や地域独自の文化、サステナブルな取り組みなどを伝えることで、彼らをファン化させることができます。

インバウンド事業は国内市場を下支えする重要な産業であり、短期的なブームではありません。まずは「誰に来てもらいたいのか」を明確にし、彼らが共感し、共有したくなる体験を設計することが必要です。中国の若者富裕層という“重要ターゲット”に的確にアプローチできれば、日本の観光は持続的に成長し、長期的なリピーター獲得にもつながります

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