Today’s China⑤:消費志向が異なる中国人女性

訪日中国人のなかでも、女性は非常に重要な存在ですが、その関心や消費行動は、年代や地域によって大きく異なります
一見「中国人女性」というひとつのカテゴリーに見えても、その内実は非常に多様であり、アプローチを考えるうえで、この違いを丁寧に理解することが求められます。

たとえば1950~60年代生まれの中高年女性たちは、建国直後の厳しい時代を生き抜き、文化大革命の混乱を経験してきました。共働きが当たり前だった社会の中で、家事と育児を担い、家族のために生きてきた彼女たちは、ようやく自由な時間とお金を手に入れ、今までできなかったことを「今こそ取り戻したい」と願う層でもあります。買い物や旅に積極的で、カラフルな服装やにぎやかな観光を好む傾向も見られます。

それに対して、1980〜2000年代生まれの若い女性たちは、一人っ子政策の恩恵を受け、高等教育や海外留学の機会にも恵まれ、親世代とはまったく異なる価値観を持つ世代です。特に都市部の女性は、洗練された感性を持ち、モノトーンやミニマルなファッションを好みます。無印良品の人気の高さも、こうした感覚と合致しているからこそです。

加えて、中国の戸籍制度に起因する地域格差も重要な要素です。都市部に暮らす女性たちは、日常的なストレスや都市化による疲れから、「癒し」や「秩序」を求めており、農家でリラックスする小旅行の「農家楽」が人気で、自然に囲まれた静かな日本の地方への関心が高まっています

日本の温泉宿や農村滞在、ローカルなカフェや体験型観光などは、中国の「農家楽(のうかがく)」をアップグレードしたような存在として注目されています。
彼女たちにとって、日本の地方にある“何でもない日常”こそが、心から癒される非日常。清潔さ・静けさ・人との温かいふれあい—こうした価値を丁寧に伝えることが、共感を得る鍵となります。

“誰に、何を、どう伝えるか”。その精度を高めることが、インバウンド戦略における差別化につながるのです。

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